読書メモ「砂漠(伊坂幸太郎)」

いわゆる「青春小説」と言いますか、高校生や大学生の主人公が仲間と云々かんぬん…という話は、自分の学生時代のことを思い出してしまって、どうにも苦手です。自分の大学時代の思い出といえばそれはそれは苦いものがあって、まあいつかブログに書いてみたいとも思っていますが、思い出すだけで苦しくなります。同時にココロに現れる後悔や自責の念。今更後悔したってどうしようもない訳で、それに対してまた欝になる。

そんな理由もあって伊坂作品大好きっ子の僕がこの「砂漠」は読むのを躊躇っていたのですが、決心して読んでみた所、やっぱりビターな思いもしたのですが、笑顔で「ほろ苦いね」と言えるような、そんな作品になっていると思いました。

あらすじ

大学に入学した北村が出会ったのは、一風変わった仲間たち。
騒々しい「やませみ」みたいな鳥井、突飛な説教をかます西嶋、無愛想な美女東堂、超能力が特技の南。彼らが巻き込まれた事件とは?

楽天ブックス|著者インタビュー 伊坂幸太郎さん

あまりあらすじになってない…。まあそれはいいとして。(リンク先はインタビューなので読了後にでもどうぞ。)

相変わらず登場人物が個性的で、魅力的で、そこに伊坂作品が面白い理由が隠されていると思います。読者は登場人物みんなを好きになってしまう。特に僕は西嶋が好きですね。勝手に脳内でサンボマスターの山口氏をイメージして読んでました。あんなふうな熱い感じなんで。

確かに大学時代というのはこんな感じで、仲間と集まって麻雀したりボーリングしたり、あとは今考えると面白かったのかは分からないけれど、当時にすれば面白いと思っていたことなどもしていた気がします。この作品ではいくつか「事件」が起こりますが、リアルにはあまり考えられないような事件だけれど、リアリティがあって、むしろ自分の周りでもそんなことが起こっていたんじゃないか、と思ってしまったことも面白い。

巧いなと思ったのが、この作品は「春」「夏」「秋」「冬」と章立てになっているのですが、これが一年間の四季におこった出来事ではなく、「大学一年の春」「二年の夏」「三年の秋」「四年の冬」に分かれていた、と最後になってわかること。大学の四年間なんてあっという間だということを実感させてくれる組み立て方だと思いました。


今、実際に社会に立ってみて、ココが砂漠だってわかったのですが、学生時代にココには砂漠が広がっているだなんて想像できませんでした。それが今に至る敗因な訳ですが、今読むこそ分かるおもしろさ、っていうのをこの本は持っていると思います。砂漠で読むから分かる。でも大学の時にこの本を読んだら、オアシスの中でこの本を読んでいたら、今立っている位置は違ったのかな、とも思います。恐らく砂漠は砂漠で違っていたかもしれません。鳥取砂丘サハラ砂漠かの違いで。

この作品をきっかけに、過去を悔いるという意味のないことはもうやめよう、と決心しました。あとこの言葉も憶えておこうと思う。「学生時代を思い出して、懐かしがるのは構わないが、あの時はよかったな、オアシスだったなと逃げるようなことは絶対に考えるな。 そういう人生は送るな」