読書メモ「終末のフール(伊坂幸太郎)」

何の前知識も無く読み始めたので、本当に文字通り「終末」をテーマに書かれているとは思いませんでした。

この「終末のフール」は8年前に小惑星が地球に衝突することが発表され、その衝突が3年後に迫っている世界に生きる人々の物語。こんな突拍子も無いとも言えるし、ありきたりだとも言える設定なんですが、どちらにしてもリアリティのない世界なんだけれど、伊坂氏の文体によってそれをもリアルに感じさせるお話に仕上がっています。

物語は8つの短編による連作。初めに表題作「終末のフール」を読み終えたとき、あまりのあっけなさに「これで終わり?」なんて思ったりもしたのだけれど、以降「太陽のシール」「篭城のビール」と同じ世界で別の主人公による話が続いています。

伊坂氏と言えば伏線の回収の巧さにいつも舌を巻いているのだけれど、今回はいつものような「物語上の伏線」はあまり張っていません。そのかわりに各話の主人公が、他の主人公のお話でも登場します。それも物語が進むに従って、きちんとお話の中の時間も少しですが進んでいます。そこに人々が「生きている」事を感じられ、安心もするし、嬉しくも思いました。各話は短編なので一旦はピリオドが打たれているわけですが、「その後、その人はどうなったのか」も知りたくなるわけで(状況が状況なだけに)、それを満たしてくれるのがまた面白い。

このお話の中の人々は最終的には衝突によってみんな死んでしまうかもしれない。きっと死んでしまうのでしょう。そんな絶望的な状況の中でも、希望が描かれていて、各物語のラストは何らかの形で救われており、そこに静かな感動を覚えました。

個人的に気に入ったのは「太陽のシール」。優柔不断な主人公と自分がすごく重ね合わさって見えて、苦しいくらいだったんですが、苦しい分だけ楽しめました。

現実の世界で小惑星が衝突するなんてありえない話なんですが、例え小惑星は衝突しなくても同じことなんじゃないかと思います。つまり、僕たちは「3年後に死ぬ」なんてわからないけれど、「3年後に死ぬ」とわかることは重要じゃないんです。3年後だろうが何年後だろうがいつかは死ぬわけで、その日まで生きなきゃいけないんです。物語の中の人々が3年後まで必死に生きているように。

死んでも死なない、そう生きようと思いました。

そんな元気付けられる一冊です。伊坂氏の本はハズレがなくて困る。