読書メモ「「たま」という船に乗っていた(石川浩司)」
id:LittleBoyさんの「てれびのスキマ」で知ったのですが、たまのランニングこと石川浩司さんが自身のサイト上で絶版となった著書「「たま」という船に乗っていた」を無償で公開していました。無償で公開なんて太っ腹。ぼったくりで有名なAmazonのマーケットプレイスの最安値で¥ 2,349ですよ?それを公開だなんてなかなか出来ませんよね。興味を惹かれたので読んでみました。
これがまたおもしろい。リアル"BECK"とまではいきませんが、「バンドの成長物語」という面では同じ面白さを持っています。まるでフィクションのようなノンフィクション。「たま」と言えば「ランニング」であり「さよなら人類」という知識しかなく、「イカ天」をリアルタイムで観ていなくても楽しめる内容でした。一気に読んでしまった。
興味深かったのは一躍スターとなった「たま」がマスコミの真実を知った部分。
ある音楽番組に出演する為、俺達はテレビ局を訪れた。
http://members.at.infoseek.co.jp/ukyup/fune5.html
打ち合わせの時、いきなり言われた言葉が、
「本当に演奏するんですか?」
俺達は「?」と一瞬理解不能の状態に陥った。
(何をこの人は言ってるんだ? その為に今日ここに来たんじゃないか)
そして番組が始まって、すぐにその言葉の真意が氷解した。
つまり本当に演奏していたのは、おそらく「たま」だけだったのだ。
あるバンドが演奏を始めた。
しかし、ギターやベースのシールド(コード)はどこにも繋がっていないのだ。
だがドラムだけはどうしても音が出てしまう。
曲とは全くズレたリズムのドラムの音が会場に鳴り響く・・・。
でもトークコーナーで待つ俺達の横にあるモニターには、そのズレたリズムのドラムとは全く違う、抜群に上手い演奏が流れていた。もちろんお茶の間にもこの音が流れているのだ。
その時はでも、せめてボーカルだけはちゃんと歌っていると思ったが、よく考えてみると、後ろのリズムのズレたドラムの音だって少しはマイクが拾ってしまうはずだ。
ということは・・・。
そうかと思うと、ある新聞の取材など、
「今『たま』というのがブームらしいから、取材してこい」
と上から言われたのか年輩の新聞記者が苦虫を噛み潰したような顔で取材場所にやってきて、第一声が、
「ところであんたたち、何なの? お笑い? 芸人?」
って、俺達が音楽をやっていることすら下調べしないで平然とそっくり返って、
「仕事だからしょーがなく取材してやってんだよ」
ってな見下した様な態度でやってきたりもした。
人を呼びつけておいてそれはないじゃろ〜。ほーいほーい。
放送禁止用語が入っているとのことでメジャーでは発売できなかった曲もあったようで、
中には「えっ? どこが問題なの?」と首を傾げるものもあった。
http://members.at.infoseek.co.jp/ukyup/fune8.html
「ひるね」というアルバムに柳ちゃんが歌詞を書いた「牛小屋」という曲があり、歌詞カードにコーラス部分の「ヨンヨコヨンヨンヨ〜ン」という、ま、一種のかけ合い言葉みたいな特に意味も持たない表現があったのだが、これが歌詞カードを印刷した後、「差別用語」と見なされ、なんとそれまで刷った歌詞カードが全面廃棄処分させられたのだ。
「ヨンヨコヨンヨンヨ〜ン」
このただのノホホンとした言葉が何故駄目なのかわかる人ってどのくらいいるのだろう?
もちろんメンバーの誰もわからなかった。
この言葉が駄目な理由を聞くと、こうだった。
「ヨン、というのは数字の4を想起させる。で、数字の4というのは『4つ足』というのを想起させる。この『4つ足』というのは牛や豚などの4つ足の動物のことで、それを捌く業者のことにも使われる。そしてそれは、昔は身分の低い者が行っていた。つまり身分の低い者を4つと言って侮蔑し、差別していた。よって、この歌詞は差別表現となる」
説明を聞いても、ポカーンと皆ポカホンタスになってしまった。
・・・そんな謎解きみたいなことがわかるかーーー!!
自分はバラエティー番組で拝見したこともありました。それについても。
テレビはたまにバラエティ等に呼ばれることもあった。
http://members.at.infoseek.co.jp/ukyup/fune10.html
「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで」にも何回か出演したが、最初の出演はいわゆる「どっきり」だった。
初めは「軽いトークに出演してくれ」というので元々妻の影響でダウンタウンの番組はまだ彼らが深夜帯の番組しかやっていなかった頃からすでに全て録画して見ていたほどの大ファンだったので、ふたつ返事でOKした。
当日、スタッフと一緒に控え室で待っていると、
「すいません石川さん、楽屋に入る前にランニングに着替えて下さい」
と言われた。
衣装に着替える場所が楽屋なのに、なんとなんと面妖なことよと思ったがとりあえずトイレで着替えて楽屋に入った。
ところが入った途端に俺は気づいてしまったのだ。小さな隠しカメラがさりげなく2台こちらを向いているのを。
そしてテーブルの上には異常に豪華な弁当とエロ本。そして何故か各種ヅラ。それまでもテレビにはそこそこ出たことはあるので、そんな物が楽屋に置いてあることはあり得ないのだ。そしてすぐに、
「どっきりか・・・」
と気づいてしまったのだ。
これには正直困った。
つまり、自分の立ち位置がわからなくなったのだ。
完全にコメディアンなら何も気づかないふりをしてどんどんボケていけばいいのだろうが、ステージではくだらないパフォーマンスはするものの、それはあくまで音楽ありきの上でのお遊びなので、完全に「お笑い芸人」に徹するのは意識的にもまた技術的にも無理だった。
たぶんスタッフは、たまのランニング=山下清=天然ボケという構図を期待していたのだろーが、確かにボケはあるものの実はその逆の狡猾なところも同時にあったりするので、素直にボケる心の準備も出来ていなかったのだ。
しかも考えてボケるとさっぶい事になるのは自分でもわかっていた。
かといって「何だこの隠しカメラは〜」というのも大人気ない。
ということで結局ビミョーな感じになってしまった。
でもこれは今でも悩んでいるのだ。
世間のイメージは前述の通り、山下清=天然ボケを望んでいるのは、その後のなんだかんだのテレビ出演した時の放送時の編集等を見てもはっきりわかるのだが、実際は結構振られるとつまらないことをウダウダと喋ってしまうタチだったりするのだ。
マスコミに関する部分だけを抜き出してマスコミ叩きをしたいわけじゃありません。ですが、自分がマスコミに左右されてきたのは事実だったなあ、と確認することが出来ました。だって「たま」と言えば「ランニング」で「着いたー!」で「山下清」というイメージを植えつけられていたから。それが実際はほぼ180度違っていたと言っていいほどなのを、これを読むまで知りませんでした。自分のような「たま」についてそこまで詳しくない人間ならみんなそうなんじゃないでしょうか。
当時の音楽シーンやマスコミについて以外にも面白い箇所はたくさんあって、中でも気に入ったのが、この部分。
もちろん多少の嫌なことや「なんじゃ、そりゃー!?」ってな松田優作みたいなこともあるにはあったが、それはどんなジンセーを送っていてもあるものだと思うし、まぁ厭なことはなるべくすぐに「ナ・ン・ジ・ボ・ウ・キ・ャ・ク・セ・ヨ」というシステムを俺は自分の頭に徐々に培ってきていたのでさほどの問題ではなかった。
それでも忘却出来ない物は「幸福な日々」をより際立たせるスパイスだからしょーがね〜や、とゴーインに思うようにしていたのだ。
だってそう考える方が得だもーん。得が好きなんだもーん。
「それでも忘却出来ない物は「幸福な日々」をより際立たせるスパイス」と思えるようになりたい。嫌な事にすぐ負けてしまう弱い心を持っているので。こんな風に思える人はとても強いと思います。
引用ばかりで申し訳ないのですが、とにかく面白かったので紹介しました。「たま」、聴いてみようかな。